島田荘司『島田荘司読本』

島田荘司_島田荘司読本
島田荘司『島田荘司読本』 (講談社文庫)

『島田荘司読本』を読みました。書下ろしや著作ガイド、評論等々を収めたやつ。

御手洗潔の父、直俊は太平洋戦争前夜、日本が負けることを確信していた。直俊は軍を説得しきれず、日本は焦土と化した。暗黒時代の青春、絶望と再生の物語―。(「天使の名前」)名探偵・御手洗潔のルーツを探る感動的な巻頭書き下ろし小説を始め、評論・全作品を網羅した著作ガイドを含む、完全版個人読本。

やっぱりシマソウ、好き。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓

多分、一番好きな“名探偵”は御手洗潔だ。

その御手洗潔の父親である、直俊を主人公にした書下ろし小説「天使の名前」。これが凄い。大雑把に言うと、前半と後半に分かれていて、前半では外務省に努めるパパミタライが日米開戦を避けようと奮闘する様子を、後半では広島に原子爆弾が落とされた時の地獄絵図を描いています。それが双方、凄い。
あらゆる努力を惜しまず、文字通り命を懸けて奮闘するパパミタライの姿は息子に重なるし、粘り強く人を説得することの大切さ、それとは反対に、機能しない権力の構図までもつまびらかに描かれており、胸を打たれます。
そして、丹念に冷静に描かれた原爆投下直後の様子の凄まじさ。そこに、幻想的な筆で以って“希望”を託すことも忘れない作者のスタンスに涙…。

「ただ、このようには願う。できることならその子は、私より強い子であって欲しい。自分のような弱い者は、もうたくさんだ。」
こう独白する直俊ですが、彼が「弱い者」でないのは、本編を読んだ読者なら理解できるはず。御手洗ファン必読でしょう、こりゃ。ミステリではないけれど。


この本が出た当時までの著作を、フィクションとノンフィクションに分けて紹介したガイドがなかなか使えます。私、シマソウ好きですけど、今まで読んだのはほとんどが御手洗シリーズで、それにプラスして吉敷シリーズとノンシリーズをおそらくは両手に足りるほど。このガイドを基に、他の小説も読んでみたいですね。
儒教の功罪に触れた評論も興味深い。


そのトリックの切れ味ではなく、テーマの選択とそれへの深い考察、熱くも冷静な読みやすい文章、そしてロマンティズムと優しく大らかな視線。それらへの信頼感によって、本格ミステリ作家ではダントツ島田荘司が好きなのです。
スポンサーサイト

COMMENT 0