今野敏『転迷 -隠蔽捜査4-』

今野敏_転迷
今野敏『転迷 -隠蔽捜査4-』 (新潮文庫)

バカミスではないにもかかわらず、私がいま最もニヤニヤしながら読むことができるシリーズもの・今野敏の隠蔽捜査シリーズの4作目(スピンオフの『初陣 -隠蔽捜査3.5-』を入れると5作目)『転迷 -隠蔽捜査4-』を読みました。

大森署署長・竜崎伸也の身辺は、にわかに慌しくなった。外務省職員の他殺体が隣接署管内で見つかり、担当区域では悪質なひき逃げ事件が発生したのだ。さらには海外で娘の恋人の安否が気遣われる航空事故が起き、覚醒剤捜査をめぐって、厚労省の麻薬取締官が怒鳴り込んでくる。次々と襲いかかる難題と試練――闘う警察官僚竜崎は持ち前の頭脳と決断力を武器に、敢然と立ち向かう。

今野敏の警察モノの漢字タイトルの響きが独特で良いよねぇ。内容もまた。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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私は文庫化されてから読んでいるので(まだ単行本の)『宰領 -隠蔽捜査5-』は未読ですが、ミステリとして読むならばこのシリーズの最高到達地点は今のところ『果断 -隠蔽捜査2-』だと思います。1作目ありき、の話ではありますが。
本作を読んで感じたこと。それは、シリーズを重ねるにしたがって、安積班シリーズのような雰囲気も漂ってきたようだな、と。物語の着地点が割と分かり易く、謎解きや読者をアッと言わせるような展開には力点が置かれていない感じ。勿論筆者の警察小説には元々その傾向があるのですが、戸高が安積班での須田のような事件の流れを変えるキーパーソンになっている点や、当初はまったく無関係に思えた複数の事件が一つに収斂する展開を目の当たりにすると、「似てきたな」と。

かといって本書が面白くないかと言えばそんなことはなく、安積班シリーズがそうであるようにめちゃめちゃ面白い。堪んねぇす、竜崎警視長。以前よりちょっと丸くなってきた感はあるけど。

竜崎の幼馴染でもある刑事部長・伊丹との会話、
伊「乗りかかった船だろう。協力してくれ」
竜「俺はおまえの船なんかには乗りかかってもいない」
伊「おまえならうまくやれる」
竜「うまくやれるかどうかなんて関係ない。やる気がないんだからな」

伊「(前略)おまえだって、長年警察で仕事をしているんだから、それくらいのことはわかるだろう」
竜「わからない。無駄は無駄だ」

こんな感じで、いつも通りの切れ味です。
会話だけでなく、原理原則を貫く竜崎の視点ならではの「役所」のありかた/ありようの分析が面白いし。

でも本作の肝は、同じ警察内の人間だけでなく、竜崎が麻薬取締官(厚生省)や外務官僚、警察庁警備局の理事官等々、“外部”の人間ともやりあうってところ(竜崎にはやりあっているとの認識はないでしょうが)。これがめっぽう面白い。特に終盤、複数の事件の関連性が浮かび上がってくる場面で、伊丹の“策略”により2つの事件の捜査本部の指揮官を押し付けられるところ。そしてそこからの小気味よすぎる展開は白眉ですね。

充実作。『宰領 -隠蔽捜査5-』が非常に楽しみ。
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