スティーヴン・キング『アンダー・ザ・ドーム』

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スティーヴン・キング『アンダー・ザ・ドーム』 (白石朗 訳、文春文庫、1~4)

スティーヴン・キング御大の大作、『アンダー・ザ・ドーム』を読みました。

ある晴れた日、田舎町チェスターズミルは透明の障壁によって外部から遮断された。上方は高空に達し、下方は地下深くまで及び、空気と水とをわずかに通す壁。2000人の町民は、脱出不能、破壊不能、原因不明の“ドーム”に幽閉されてしまった…。スピルバーグのプロダクションでTV化。恐怖の帝王の新たなる代表作。全4巻。

恐怖に駆られた町民たちが引き起こしたパニックで死者が続出。軍は障壁の外側から、ドーム破壊のためのミサイル攻撃を計画する。そんな中、一人の男が立ち上がった。その名はビッグ・ジム。町を牛耳る権力者。彼は混乱に乗じて警察力を掌握、暴力による支配を目論む。逃げ場のないドームの中で、絶対的恐怖政治が開始された!

透明な壁に閉ざされた町は独裁者ジムの手に落ちた。対抗しようとしたバービーは無実の罪で投獄され、悪意と暴力が人々を陥れてゆく。法も秩序も正義もドームの中には手を伸ばすことはできない!一方、天才少年ジョーと仲間たちは山中でドーム発生装置とおぼしき謎の機械を発見し…。破滅への予兆が高まりゆく緊迫の第3巻。

臨時町民集会が目前に迫る。そこで反対勢力は死刑を宣告されるだろう。一方、子どもをはじめとする町民たちは不吉な夢を見始める。それは最後の災厄の予兆…。町は爆発の臨界に達した。浄めの炎が迫りくる。業火のハロウィンがやってくる!巨匠の筆力が描き出す未曾有の大破滅。あまりに圧倒的な大作、完結。


この綿摘み野郎がッ!


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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「綿摘み野郎」ってフレーズは本作におけるラスボス的敵役、ビッグ・ジムの口癖です。意味合いとしては「クソッタレ」みたいな感じの差別的言葉だと思いますが、彼は事ある毎にそれを口にします。口を開けば「綿摘み野郎、綿摘み野郎」と罵る。気に食わない人物を評する場合だけでなく、これの変化形もあって「綿摘み野郎な事態」とか「綿摘みな○○」のように使う場面もあります。このフレーズがツボにハマります。読んでいると次の「綿摘み野郎」がいつ登場するのか気になって気になってしょうがないんですわ(笑)
この名言(?)「綿摘み野郎」の存在感もなかなか強大なものながら、ビッグ・ジム本人のクソッタレな魅力たるや堪りません。こんなに徹底的にあくどいヤローもなかなかいないのでは。逆に清々しくなるほど。「ビッグ・ジム、もっとやれ」と言いたくなる(笑)

登場人物が比較的はっきりと“善”と“悪”に分かれるキングの小説ですが、外界と遮断された町が舞台となる本作ではそれがより顕著だなと感じます。つまり、“ビッグ・ジム側”か“それと敵対する側”か。文中でも「自分がどっちのチームにいるのか考えた方がいいわ」みたいな会話や描写が繰り返され、ジワジワと焦燥感と居心地の悪さを煽ります。
そしてキングの本分であると考える、奇妙で恐ろしい事態に巻き込まれた時の人間模様の描写や語り口はやはり冴えわたっていますね。

いささかの疑念もなくきっぱりと断言できるのは(中略)、自分は生まれ育った町が正気をうしなうさまを目撃したし、そのあとでは二度と元の自分にはもどれない、ということだけだった。

末期患者の介護にあたっていた者なら語るように、死の否定が死の受容に変化する転回点はたしかに存在する。(中略)否定が受容にとってかわる。受容は依存心を産む。(中略)夜が闇に閉ざされて時間の流れが遅くなったとき、彼らが必要とするのは寄り添ってくれる者だ。

ビッグ・ジムの演説をきく必要が、われわれにあるだろうか?まさか。(中略)それに、そもそもどんな話になるかは知っている。アメリカがいちばん得意とするふたつのジャンル、それはデマゴーグとロックンロールだ。当節ではわれわれだれもが、すでに双方をいやというほどたっぷりきかされている。


ほんの、ごく一部でしかないですが、上に挙げた文章たちは正にキング節爆発。

“ドーム”の存在の謎という点にクライマックスを求めるならば、どんなラストになっても文句が出る類の小説でしょう。大風呂敷広げた系、ともいえる作品ですし。確かに「へ?…ソレ?」と思えなくもない結末だったりするのですが、それより私はそこに至るまでの各シーンの苛烈さや美しさにこそ魅かれます。
群像ドラマであると同時に、各所に印象に残る個々人のエピソードを挟みながら進むストーリー。拡大してゆくビッグ・ジム陣営の薄気味悪さと、バービー達陣営のスリリングな生き残り作戦。終盤、あるカタストロフが町に襲い掛かる際の描写の、淡々としているがゆえの凄まじさと恐ろしさ。“ドーム”の壁越しに育まれる、生き残りの少年と陸軍歩兵の奇妙な友情。キングは子供を書かせたら、やっぱ巧いね。


傑作。
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