雫井脩介『ビター・ブラッド』

雫井脩介_ビターブラッド
雫井脩介『ビター・ブラッド』 (幻冬舎文庫)

雫井脩介の警察小説、『ビター・ブラッド』を読みました。

新人刑事の佐原夏輝がはじめての現場でコンビを組まされたのは、ベテラン刑事で、少年時代に別離した実の父親・島尾明村だった。ある日、捜査一課の係長が何者かに殺害された。捜査本部は内部の犯行を疑い、その矛先は明村にも向かう。夏輝は単独で事件の核心に迫ろうとするが…。幾重にも絡み合った因縁が読者を欺き続ける傑作長編ミステリー。

雫井脩介といえば、「今夜は震えて眠れ」な『犯人に告ぐ』、「別に…(by沢尻エリカ)」の『クローズド・ノート』(未読)あたりが有名でしょうか。これは単行本で出た時から面白そうだなと思っていた本。


以下、「ネタバレ」してますので、ご注意ください。
 ↓

こ、これはバカミスなの…か…!?

なんせ主人公・佐原夏輝が一緒に捜査をすることになる警視庁捜査一課の連中が個性的で、かつそのあだ名が凄い。
・アイスマン鍵山
・ジェントル島尾
・スカンク富樫
・チェイサー稲木
・バチェラー古雅
・ゴブリン小出
・オクトパス南

特に、バチェラー古雅が出てきた時は笑ったね。で、その中のジェントルが夏輝の父親なわけですが、こいつがめっぽう面白い。「新人刑事にとって一番重要なのはジャケットだ」とのたまう彼の得意技は“ジャケットプレイ”。

 明村が煙草を消して、おもむろに立ち上がった。
 彼が椅子の背にかけていたジャケットの襟をつまんで持ち上げ、突然、それを振り回すように動かした。右に左に宙を舞うジャケットに対して、肩を鋭く動かして腕を捻じ込んでいく。バッ、バッと衣擦れの激しい音が上がった。
 何だ今の、無駄に派手な着方は……?
 ジャケットプレイ?
 明村は最後に、襟回りをフィットさせるように軽く肩を回し、それから夏輝をちらりと見た。
「よし、行くか」
 まじかよ……

「それで、こうやってみろ」
 言うが早いか、明村はとたんに真剣な顔になり、左手で自分のジャケットの左側を鋭くまくった。
「警、察、です!」
 気張った声で名乗りながら、裏地に留めた身分証を見せつける。見得を切るように視線を決めた。
 明村は数秒、そのポーズで静止してから、出来栄えを自画自賛するように不敵な笑みを浮かべてみせた。
「どうだ……?」
「どうだって言われても……」


もう最高。こういう文章を書きたいものです(笑)
この“身分証提示ジャケットプレイ”の教示の流れに続く、「お前、サバンナでクーガーと遭遇したら、どうすればいいのか知ってるのか?」のくだりと夏輝によるジャケットプレイの実践シーンは序盤にして本作のバカミス・サイドにおけるクライマックス。

明村のペースに知らず知らずに乗せられてしまう夏輝を描いた前半は文句なく面白い。他の捜査一課の面々のキャラ立ちも素晴らしいし。
ただ中盤からは事件の空気がドンヨリとシリアスになってきて、夏輝と情報屋の2人を中心に物語は展開。すっかり捜査一課は蚊帳の外に置かれてしまいます。ま、それも止むを得ないシナリオではあるんだけど、本音を言えばジャケットプレイをもっと見たかった(笑)

バカミス、警察小説、家族モノ、成長モノ、青春モノ等々、色んな要素を詰め込み過ぎたせいで、とっちらかってご都合主義を感じるきらいはあるように思います。そして、この登場人物達はシリーズ物向けなような気も。1作だけで捨てちゃうにはもったいないなぁ。できれば1作目はコミカルに、2作目以降にシリアスな事件を持ってきてほしかったところ。
あとは終盤、伏線の回収と複数の謎にケリをつけるために急ぎ足かつ説明口調になってしまったのが惜しいですね。

ジェントル島尾のキャラだけでキャラ萌え派な私としては幸せいっぱい胸いっぱいですが。
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