結城充考『プラ・バロック』

結城充考_プラバロック
結城充考『プラ・バロック』 (光文社文庫)

日本ミステリー文学大賞新人賞を獲った、結城充考の女刑事クロハ・シリーズ1作目、『プラ・バロック』を読みました。

雨の降りしきる港湾地区。埋め立て地に置かれた冷凍コンテナから、十四人の男女の凍死体が発見された! 睡眠薬を飲んだ上での集団自殺と判明するが、それは始まりに過ぎなかった――。機捜所属の女性刑事クロハは、想像を絶する悪意が巣喰う、事件の深部へと迫っていく。斬新な着想と圧倒的な構成力! 全選考委員の絶賛を浴びた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

これは好きだね。とても、好き。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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Amazonのレビューでは「駄作としか思えない」なんて書かれちゃったりしてますが(苦笑)、これはかなり面白いよ。確かに、同じ単語を繰り返し使ったり、気取った文体に感じられ(特に序盤)たりもしますが、登場人物・事件・道具立て・謎掛けの仕方・描写等々から立ち上ってくる雰囲気が独特で、これは立派な個性かと。

「個性がある」ってのはなにも登場人物の名前がカタカナ表記であるという点ではなく(だけではなく)、作品全体を覆っている近未来的設定と、それが生み出す冷たく無機質な印象がそう感じさせるような気がします。希望に満ちたファンタジックな「未来」ではなく、少し退廃的で、身近な「未来」。前述のカタカナ表記もしかり、あえて固有名詞を出さずとも舞台は神奈川県警であることを匂わせたり、現実の世界とヴァーチャルの世界を平行描写してみたり。そういった要素と、警察小説の定石を外さずに踏んだような展開、ハードボイルド的な描写&設定が合わさることで、リアルとヴァーチャルのあわいをたゆたうような雰囲気が漂っているのが特徴かなぁ。
クロハが射撃の名手だという設定が途中から、しかも敵役の台詞によって明らかになるくだりが良いね。

そして、終始雨が降っているような暗く鬱屈した世界観の中にふっと顔を出す何気ない日常のや主人公クロハの性格の描写が、ささいなことであるけれども光が差し込むようなポジティブな印象を与えるところが好き。
警察内のクロハの“味方”であるサトウやハラとのやりとり(特にハラのキャラと描写はいいね)、徐々に噛み合ってくる捜査班の動き、謎めいた男タカハシの存在等々…も読み処だし。

“生きるための理由”という話題でクロハと自殺志願者が話す会話が特に好きですね。
「好きなインディーズのスリー・ピース・バンドがいて。新しい曲が発表されるのを楽しみにしてる。新曲を聴くまでは、生きていたい」
「新曲を聴いてしまったら?」
「次の新曲が出るまでは、死ねない。理由なんて、それくらいのものよ」
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