乃南アサ『女刑事 音道貴子 未練』

乃南アサ_未練
乃南アサ『女刑事 音道貴子 未練』 (新潮文庫)

乃南アサの「女刑事 音道貴子」シリーズ物の短編集、『女刑事 音道貴子 未練』を読みました。このシリーズ、本作以外は全て読んでいて、これだけ存在を忘れてました。6編を収録。

ふと入ったカレー屋で音道は、男が店主に「こいつは俺の女房を殺した」と怒鳴る場面に遭遇する――男同士の絆が無惨に引き裂かれてゆく様子を描いた表題作。公園の砂場で保育園児が殺害され、その容疑者の素性に慄然とする音道……「聖夜」。監禁・猟奇殺人・幼児虐待など、人々の底知れぬ憎悪が音道を苛立たせる。はたして彼女は立ち直れるのか? 好評の音道シリーズ短編集第二弾!

このシリーズの短編は事件そのものを扱うというより、スピンオフ的に主人公・音道貴子の日常生活を描写したりするものが多いです。それによってシリーズ全体の世界観がより深みを増すという意味で、その面白さや価値が長編物に劣るわけではありません。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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乃南アサの小説はこの「女刑事 音道貴子」シリーズしか読んだことないのですが、このシリーズは非常に面白いです。主人公の貴子がスーパーマンじゃなくて、ごく普通の、でも気骨のある女性だというのも読者の共感を得るのかもしれません。それも作者の木目細かい人物描写ありきの話ですが。
私自身も、登場人物としての貴子は好きなキャラではないものの、彼女の視点で描写される事件や日常生活、人物模様には自然と引き込まれますね。

今回も非常に面白い。ただし、ひとくちに「面白い」と言っても、本作の作風は非常に重苦しいです。長編第2作『鎖』の後の心身共にダメージを負った貴子が登場したり、すっぱり気持ちよく事件が解決せず心にしこりを残したまま話が断絶したりと、かなり読後感がヘヴィな話があります。とりわけ「聖夜まで」の後味の悪さと不気味さはとりわけ強烈。非常にやりきれない気持ちにさせられます。

そんな中、「立川古物商殺人事件」で貴子の相棒として捜査を担当するオッサン刑事・島本のキャラが光り、未解決のまま終わる「立川古物商殺人事件」のその後を島本視点から描いた最終編「殺人者」での、どこか爽やかな読後感は印象深いです。
音道シリーズは中年のオッサンが登場するとますます生き生きしてくるのよね。
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