船戸与一『伝説なき地』

船戸与一_伝説なき地
船戸与一『伝説なき地』 (講談社文庫、上・下)

船戸与一の『伝説なき地』を読みました。私が読んだのは上の画像のやつじゃなくって、もっとダサい表紙の(笑)上下巻に分かれたものです。

伝説も生まれぬベネズエラの涸れた油田地帯に、ある日突然世界経済を根底から覆すような希土類とよばれる超伝導の素材が発見された。オーナーのベルトロメオ・エリゾンドは没落寸前に舞い込んだこの幸運に有頂天となったが、憎み合う息子たちと愛人ベロニカは資産を廻って血みどろの争いを繰り広げた。

国境に近い涸れた油田地帯には、多数のコロンビア難民が住みつき、マグダレナのマリアという聖女が人々の団結の象徴となっていた。中に鍛治と丹波という屈強な日本人が、土地のオーナー・エリゾンド家の追い出し攻勢に備えた。巨億の希土類のため、欲望の権化と化した男たちの血の殺戮劇が今始まった。


「このミステリーがすごい!」、記念すべき第1回の堂々1位に輝いた作品。ということは、稀代の傑作・原尞『そして夜は蘇る』よりも上位という事。こりゃ、私としては期待しないわけにはいかないのですが、どうも上に掲げた紹介文がピンとこなくて、買ってはあったものの後回しにしていた作品です。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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南米を描いた作品としてはドン・ウィンズロウによる傑作、『犬の力』が思い浮かんだりしますが、アレに似た焦燥感だったりねっとりとした空気感・息苦しさ、容赦の無さを本作からも感じ取ることができます。『犬の力』から遡ることこと20年以上前の作品ですが。
あ、そういえば『犬の力』は南米だけじゃなくって、南北アメリカ大陸だったっけか…?

『犬の力』では“麻薬戦争”がメインに描かれていましたが、本作でのキーは“レア・アース”。作者の着眼点の鋭さが表れているチョイスだと思います。また、地理的にはコロンビアとの国境付近のベネズエラが舞台になるので、両国の政治的/民族的に緊張した関係が大きな背景として横たわっており、鬱屈した雰囲気を大いに盛り上げています。とは言え私自身、ここらへんの知識は全くもってありませんが。

背景事情は複雑ですが、本作の闘争の構図は単純明快。エリゾンド家傭兵部隊 vs コロンビア難民宗教軍団。双方の陣営とも所謂「戦闘のプロ」が参加することになり、設定としてはなかなかワクワクさせられるのですが、ちょっと気に食わない点もありました。
まずベロニカ、最初あれほど嫌がっていたアルフレードになんでそんな簡単にメロメロになっちゃうの?そして丹波春明もなんでそんな簡単にマグダレナのマリアに傾倒しちゃうわけ?それぞれの動機づけの部分で釈然としない所は残りますね。
また、戦闘シーンのケリの付け方もちょっとあっさりし過ぎな気もします。結局ロケットランチャーの威力によって全てが決まった感がしますし…。もっと肉体的なぶつかり合いや戦略的な読ませ所が欲しかったかな、と。

本作で最も読者の共感を得るんじゃないかと思うのが、鍛冶司郎。彼が一番性格・言動が一致してるし。彼と丹波とエトセトラ(苦笑)が麻薬組織から強奪した2000万ドルの隠し場所に辿り着くまでのストーリーが一番面白かったですね。

全体的には期待ほどではない、かな。船戸作品ならば『猛き箱舟』『蝦夷地別件』『砂のクロニクル』をオススメいたします。
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