福田和代『TOKYO BLACKOUT』

福田和代_tokyoblackout
福田和代『TOKYO BLACKOUT』 (創元推理文庫)

福田和代の2作目『TOKYO BLACKOUT』を読みました。
テロリストにより真夏の東京で大停電が発生。その時、警察は?電力会社は?マスコミは?みたいな話。

実にもったいないなぁ。

何がもったいないかと言うと、この題材はもっともっと面白くできたはずだと思うからです。作者の力量が優れたアイデアをまとめきれていないのが非常にもどかしい。

私は小説内の出来事/描写が事実と異なっていてもまるで構わないと思っています。それがその小説の中で説得力を持っていれば、という条件付きですが。例えば私の好きな伊坂幸太郎の作品では、現実にはありえないような「偶然」の出来事が次々と起こります。しかし、その「偶然」が“伊坂ワールド”の中では説得力を持っているので、彼の小説を読んでいる間は「こんなのありえねぇ!」なんていう無粋なツッコミは(少なくとも私は)頭をよぎりません。それはまるで“魔法”にかかっている状態の様です。私はこの“魔法”にかかるために小説を読んでいるようなものです。作家によって(むしろ作家との相性によって?)“魔法”の強さが異なり、読んでいる途中で“魔法”が解けてしまったり、そもそも“魔法”にかからなかったりします(※本格推理で言えば、誰が犯人か/どうやって××したのか、等の謎の行方がどうでもよくなったり)。

(個人的には)“魔法”が途中で解けちゃう作品、それが本書です。

以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓
震災の影響によって原子力発電所が稼働できなくなり東北・関西からの電気の融通によって綱渡り状態の東都電力。折しも今年は猛暑。首都圏に住んでいる私たちが経験した(している)状況によく似た設定です。テロリストの鉄塔爆破により東北・関西からの電力供給がストップ。東都電力は輪番停電によって乗り切ろうとするが、システムに仕掛けられたバグによって連鎖的に停電に陥ってしまう。という大停電発生までは非常に面白い。私たちは震災後、電気に関する色々な知識を得ましたが、その知識無しで本書を読んでいたらより一層面白かったのでは(本書は2008年作)。

しかし、ここからがいけない。スケールの大きな話にも関わらず、(文庫本で)460ページ程の長さにあれもこれも詰め込もうとして結局中途半端になってます。魅力的な人物が登場しても掘り下げて描写しないために感情移入できない。人々の暮らしがどれだけ電気に依存しているか、を描きたかったという割には市井の人々の描写が不十分。かと思えばどうでもいい人物まで名前まで出して事細かに紹介してたり。停電中のホテルにたまたまチェックインしようとしていた能天気観光客のジョージとエマ夫妻のことなんて誰が気にする?
一番痛いのが犯人の心情が上手く伝わってこない事。なぜ停電を起こしたのかの動機づけが弱いんだよなぁ。なかなか犯人像としては斬新だったのに。

一番納得できないのは(些細な事ですけど)、慎重な性格の東都電力の技術員・千早が犯人の言う事を鵜呑みにしてシステムのチェックもせず復電作業を始めちゃうエピローグ。説得力がなく完全に“魔法”が解けてます、私。
もったいないなぁ。
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