樋口明雄『約束の地』

樋口明雄_約束の地
樋口明雄『約束の地』 (光文社文庫、上・下)

樋口明雄の、大藪春彦賞・日本冒険小説協会大賞をW受賞した大作『約束の地』を読みました。

これメチャメチャ面白い!
筆者の山岳冒険小説の傑作『狼は瞑らない』より、さらに素晴らしい。

以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓
非常に多くの要素が効果的に絡み合いつつも破綻していないのが凄い。

①環境庁のキャリア役人・七倉は八ヶ岳の野生鳥獣保全管理センター(WLP)に赴任、
 個性的な現地スタッフに受け入れてもらえるのか
②人間による無計画な環境開発/汚染の影響による山の自然の破壊と生態系の変化
③それぞれの立場による対立(WLP vs 昔気質猟師、WLP vs 動物愛護団体)
④七倉の娘・羽純は学校で苛められる
⑤過去にあったハンターによる現地民射殺事件とWLPスタッフの不自然な死の謎
⑥巨大熊“稲妻”と巨大猪“三本足”はどうなっちゃうの
⑦七倉は犬嫌いを克服できるのか

ざっと挙げてもこんなに盛り沢山。しかし、無理矢理詰め込んだ感じはしなくてワクワクしながらページをめくるのが楽しくて仕方ない。

主人公の七倉は、今野敏の描く『隠蔽捜査』シリーズや『安積班』シリーズのような、“気取ってない系”型破りキャリア主人公で良い。
苛めにあう娘・羽純が「早く大人になりたい」と言うのに対し、
「大人になれば強くなれると思うのなら、それはきっと間違いだ。大人は大人の悩みがあり、弱さがある。パパの中にも不安があるし、怖れもある。今でもいろいろなことを考えてひとりで泣きたくなる。まったくのところ、パパは弱虫だよ。自分で情けないぐらい」

拉致された羽純の救出に向かう七倉らWLPの面々を導く手掛かりが、(羽純が落していった)ビーフジャーキーというのが鳥肌。その後のWLPと猟師が協力して“三本足”と対決するシーンがクライマックスか。
WLPのメンバーが個性豊かで素晴らしい。続編を書いてほしいなぁ。アメリカに帰っていくインストラクターのクレイグを見送るシーンでは思わず涙。

また、本作のテーマに、身近な人の死をどのように受け入れるのか、というのがある。
妻を亡くした七倉。父親を殺された澪。息子を亡くした狩猟会長。スタッフを亡くしたWLPのメンバー。
繰り返される「死というのは忘れたり、克服したりするもんじゃない。共に生きていくものなんです」というフレーズが胸に滲みる。


南アルプス山麓に居を構える筆者ならではの体験と綿密な取材に裏打ちされた本作ですが、欠点がひとつ。
樋口さん、ヘヴィ・メタルが何かってまるで分かってないね(怒)
こういうのがある。

最近、ブレイクしたヘビメタ・バンド〈レベルズ〉のヒット曲、《アイ・ショット・ダディ》の挑発的な歌がスピーカーから流れる。

ちなみにこの〈レベルズ〉をお気に入りの若者・古瀬晃は自分を認めない父親に反発してる、という設定。
安直過ぎでしょ。
まぁ実際《王を殺せ!》という名曲があるくらいだから《オヤジを撃て!》があってもいいけど......“ヒット曲”らしいし。

また、この古瀬晃が終盤ブチきれて猟銃持ってあんなことやこんなことしちゃう訳ですよ。
銃乱射した犯人は日頃からMARILYN MANSONやMEGADETHを聴いていた、みたいなレベル。あ~あ。


あと、終章でいきなり老獪な猟師のようになっている七倉には少し違和感。
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