江戸川乱歩『十字路 他一編』

江戸川乱歩_十字路他
江戸川乱歩『十字路 他一編』 (春陽堂書店)

江戸川乱歩の中編2作を収めた、春陽堂書店版『十字路 他一編』を読みました。

推理小説界の巨匠・江戸川乱歩が、戦後、昭和30年に書き下ろしで発表した野心的大作「十字路」。
伊勢商事社長の伊勢省吾は、日輪教の狂信的信者である妻・友子を嫌い、若い女秘書・沖晴美と恋愛関係にあった。晴美のアパートのへやに押しかけてきた友子を省吾は絞殺した。友子の死体をどこへ運ぶか。晴美とドライブした藤瀬ダムの古井戸が省吾の頭にひらめいた。キャディラックのトランクに死体を隠し、藤瀬へ向かう省吾は、新宿ガード下の十字路で突発事故に会った。そのすきに車内にもう一体の男の死体が出現していた。次々に発生する奇怪な事件のナゾは? 新作「十字路」に中編名作「盲獣」も併せた豪華版。


推理モノの『十字路』と、変態モノの『盲獣』。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓



乱歩作品は既読のものが多い(ほとんどか?)んですが、『十字路』もそう。初読時の暗いイメージが脳裏に残っています。
形式としては、犯人が分かっている倒叙モノですから、推理モノとはいえ、トリックが明らかになる際のカタルシスはありません。犯人に感情移入して、真綿で首を絞められるような焦燥感を感じるってのはあるかも。ミステリというよりサスペンス・ドラマの脚本のような。
ちなみに私は真綿で首を絞められたことはないです。これからもないと思いたいです。

ご都合主義的展開が続きます。アイデア第一! 説得力なんてものは役に立たんから脇においておけ!、みたいなところが大いにあります。さすが乱歩先生。『十字路』の元ネタはどうやら乱歩が書いたものではないらしいんですけど。
そんな本作、ミステリ的な読み応えはともかく、「数奇な運命の交錯」というテーマを「十字路」に重ねて描いたところに良さがあると思うんですよね。そのイメージが切なさやロマンティシズムに繋がっているので。
あとこの『十字路』、乱歩作品にしては珍しく(?)、「犯人=好感、探偵=いけすかない」というキャラ造形だったりします。


2編のうち、どちらが乱歩らしい作品かといえば、どう考えても『盲獣』。
変態だから。
もうね、やりたい放題ですよ、乱歩先生。変態趣味・猟奇趣味全開、フルスロットル。途中、冒険モノにシフトしちゃう?もしかして?と思わせておいて、やっぱり変態のまんまラストまで突っ走るという、異形の作品です。鎌倉ハムのくだり、マジやばいって。

正直、短編で十分なあらすじですよ。中編まで尺を広げるだけの起伏や展開があるわけじゃない。作者みずから「もう同じようなくだりを書き連ねることに飽きた」みたいな、冗談とも本気ともつかぬ独白パートがあったりしますし。でも、完全にパターンを読み切れる展開を繰り返しまくるこの冗長さこそが、本作に得体の知れぬパワーを与えているような気もしますね。気のせいかもしれんですけど(笑)
HENTAI 最高。


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