イアン・マグワイア『北氷洋 ~The North Water~』

イアンマグワイア_北氷洋
イアン・マグワイア『北氷洋 ~The North Water~』 (高見浩 訳、新潮文庫)

イアン・マグワイアの『北氷洋 ~The North Water~』を読みました。
初めて読む作家ざます。
装画がいいよねぇ。

19世紀半ば、英国。北極海を目指し捕鯨船ヴォランティア号が出港した。乗組員は、アヘン中毒の船医サムナー、かつて航海で大勢の船員を犠牲にした船長ブラウンリー、そして凶暴な銛打ちのドラックスら曲者揃い。やがて船内で猟奇殺人が起きるが、それは過酷な運命の序章に過ぎなかった―。想像を超える展開と圧倒的な筆力で、人間の本性と自然の脅威を描き尽くすサバイバル・サスペンス。

宣伝文句はミステリっぽいですが、読んでみたらミステリというよりは純文学の香りが濃厚だった。
「純文学」とは何ぞや?と訊かれても困るけど。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓




血、汗、糞便、内臓、腐臭、潮、港町の雑踏…etc…。
ページをめくるたびに、紙面から様々な臭いが立ち上ってくる。そのどれもがかぐわしいとはとても言えないものばかり。そんなリアリティを備えた小説です。
反面、主人公格であるサムナー医師がアヘン・ジャンキーだということもあってか、サイケデリックな夢や宗教懸かった心の内に迷い込むような描写もたっぷりあり、現実⇔非現実の狭間でとにかく翻弄されます。

ひとくちで「こういう作品です」と紹介しにくい小説ですね。捕鯨船を舞台にした冒険モノ。クローズド・サークルで起こる殺人事件を下敷きにした謎解き/サスペンス。どちらも間違ってはいませんが、本作の特徴を網羅してもいない。少なくとも作者が描こうとしたのは、「謎」と「トリック」ではないでしょうね。強いていうと「人間」と「自然」でしょうか。

読んでいて物語がどこに転がってゆくか、まるで予想できません。油断してると1行後には、いきなり急転直下の展開を迎えてるし、読者の共感を得ることなんざまるで意図していないようなクセモノ揃いのキャラたちが、次に何をしでかすかまるで読めねぇ。えっ!? この人こんなに早く死んじゃうのォ!?みたいな。

間抜けな感想であることを承知でいうと、パワーのある作品ですね。何だかよくわかんない迫力が全編を貫いている。カタルシスを得にくいどころか、拒否しているようにさえ思える作風なのに、グイグイと引き込まれるんだよなぁ…。
ヴォランティア号遭難以降の展開がものすごいんすよ。サムナーがホッキョクグマと対決して、屠り、内臓を取り出し、その血を啜り、挙句の果てにその腹腔に収まるくだりは衝撃的。その後の、映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』を想起させるようなエスキモーとの暮らしぶり、帰国してからの別人のように変貌した姿もやべえ。ナイーヴな青年像がまるっきり書き換えられて、苛烈なサヴァイヴァーがそこにはいた…。。。

読んでると滅入ってくるので、再読するには気合いが必要。
強烈な作品です。


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