原尞『それまでの明日』

原尞_それまでの明日
原尞『それまでの明日』 (早川書房)

原尞、14年ぶりの新作『それまでの明日』を読みました。
もちろん、私立探偵・沢崎シリーズの最新刊。
そういや、御大の著作ってタイトルが全部7文字表記ですね。

11月初旬のある日、渡辺探偵事務所の沢崎のもとを望月皓一と名乗る紳士が訪れた。消費者金融で支店長を務める彼は、融資が内定している赤坂の料亭の女将の身辺調査を依頼し、内々のことなのでけっして会社や自宅へは連絡しないようにと言い残し去っていった。沢崎が調べると女将は六月に癌で亡くなっていた。顔立ちのよく似た妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのか、それとも妹か? しかし、当の依頼人が忽然と姿を消し、いつしか沢崎は金融絡みの事件の渦中に。切れのいい文章と機知にとんだ会話。時代がどれだけ変わろうと、この男だけは変わらない。14年もの歳月を費やして遂に完成した、チャンドラーの『長いお別れ』に比肩する渾身の一作。

単行本ですよ、単行本。しかも発売前に予約して買った。
文庫本派、それも中古で買うことが多い管理人にとっては異例中の異例。別に筆者のサイン会に参加するためとかそういうのは関係なく、ただ単に最寄り駅の本屋さんで予約して購入しました。発売してからゆっくり買っても何の問題も無いんですけど、なんつーか、自分の中の意志確認とでもいいましょうか、それ(予約購入)をする価値のある作品になっているだろうと思ってましたし、それだけ心待ちにしていた作品でしたし。
もしかしたら出ないまま…、、、みたいなことも考えただけに、こうして刊行されたことが、ただただ、おめでたい。デビュー30周年記念作品としても、主人公・沢崎の30年にも、やっと出すことができた出版社にも、待ち続けた我々原ファンにも、おめでとう、と。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
いや、マジでこのシリーズのファンなら、ウチの駄文に目を通す前に読んだ方が良いっすよホント。作品の出来とは関係ないところで。
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おかえりなさい!

最初の章からして、ベタベタし過ぎないセンチメンタリズムが漂ってきて、嬉しくなります。もうたまんないす。こんな話し方するヤツは実際にはどこにもいねーだろと思いつつも、この沢崎ワールドの中では何の違和感も無い。そんな説得力がある文章。これこそが小説だよ。
錦織警部、ヤクザの橋爪と相良、デビュー作に登場したルポ・ライターの佐伯直樹等、お馴染みの人物達が登場するのもニヤニヤしちまうし、彼らにも「おかえりなさい」と声を掛けてあげたい気分になる。

ただ、作品を覆うムードには懐かしさで胸いっぱいになるものの、作品の出来としてはシリーズの中でもかなり下の方かもしれないなぁ…。。。筋が弱いというか、個々のシーンや人間関係の真相について、「なんだってー!?」と唸らされるんじゃなくて、「だからどうした?」という感想を抱かざるを得ないものが多いような。
あと、物語の主軸がどれなのかイマイチ分からないまま進行するため、読んでいる間の感情の起伏が一定というか、ググッと深く引き込まれる瞬間が少ない気がします。プロット的には、この文体に惚れ込んでいないとつまらなく感じたり、ご都合主義に思えるかも。

文体は相変わらず最高、プロットはちょい弱いという感想に落ち着きそうですが、ンなことより、何よりも強く迫ってきたのは、作中でも時間が流れているんだな、ということですよ。これまでも時事的な出来事を扱ってはきた本シリーズですが、なんとなく時間が止まっているような感覚があったのでね。
読んでいて感じた、時の流れの容赦の無さは圧倒的。なんせもはや沢崎がブルーバードに乗ってないし、本書の最後には事務所が移転しちまうし、相良はヤクザから足を洗いかけてるし…。。作中でも(前作から)相当の時間を経ているような描写はありましたが、それにしてもこの環境の変化はドラスティック。
ただ、沢崎が携帯電話を持っていないことには安心しました。「私は素早いフリック入力で錦織にLINEした」なんて文章が出てきた日にゃあどうしようかと思っちゃいましたよ。あと、錦織は相変わらず錦織(笑)


最後の最後に、本書の舞台が2011年であることが判明します。これがビックリ。根拠も無く“なんとなく”の感覚ですけど、作者は東日本大震災のことを書くような人だとは思っていなかったので。
「おかえりなさい作」としてはサイコーに楽しめましたし、沢崎の人物造形もセリフもやっぱり大好きだと再確認できました。でも、震災後を描くであろう次作を出すまでは終われないな、終わってほしくないなー、というのが素直な気持ちです。
頼みます。


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