下村敦史『生還者』

下村敦史_生還者
下村敦史『生還者』 (講談社文庫)

江戸川乱歩賞を受賞した『闇に香る嘘』(感想は→コチラ)に続く、下村敦史の文庫化第2作『生還者』(通算3作目)を読みました。

雪崩で死亡した兄の遺品を整理するうち、増田直志はザイルに施された細工に気づく。死因は事故か、それとも―。疑念を抱く中、兄の登山隊に関係する二人の男が生還を果たす。真相を確かめたい増田だったが、二人の証言は正反対のものだった! ヒマラヤを舞台にいくつもの謎が絡み合う傑作山岳ミステリー。

潜水艦映画と山岳小説に駄作無し。
…かどうかは知りませんが、本作もまた面白いです。『闇に~』で高まった期待を裏切らない秀作。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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サバイバーズ・ギルト(Survivor's guilt) ― 生存者が抱く罪悪感。

作品全体のテーマが、このサバイバーズ・ギルトのようです。登場人物各々が抱える“罪悪感”、それらが交わり、またすれ違うことによって引き起こされる悲劇を、ミステリ色濃いめの味付けで仕上げた作品。
極限の環境に挑むことになる山岳小説は、冒険小説の色合いが濃くなることが多いですが、本作はそれとはちょっと異なりますね。過酷な登攀シーンも読みどころではありますが、山とそこに携わる人達への想いを掬い上げた作品との印象が強いです。

その場で起こった真実を知り得るのは当事者のみ。外界から閉ざされたヒマラヤという、いわゆる“密室”を舞台にした話なので、登山隊の面々の証言がキーになってくるわけです。だが、2人の生存者が正反対のことを言ってる。どちらかが嘘吐いてるだろコノヤロな状況の中、一方を悪人にもう一方を善人にするのではない決着のつけ方が秀逸ですね。物語の終盤、それまでに散りばめられた各要素が、ピタリピタリとハマってゆく様が気持ち良いです。また、やりきれなさの中に救いを込める、そのバランスも秀逸。


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