藤井太洋『オービタル・クラウド』

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藤井太洋『オービタル・クラウド』 (ハヤカワ文庫JA)

藤井太洋のSF小説、『オービタル・クラウド』を読みました。

2020年、流れ星の発生を予測するWebサイト〈メテオ・ニュース〉を運営する木村和海は、イランが打ち上げたロケットブースターの2段目〈サフィール3〉が、大気圏内に落下することなく、逆に高度を上げていることに気づく。シェアオフィス仲間である天才的ITエンジニア沼田明利の協力を得て、〈サフィール3〉のデータを解析する和海は、世界を揺るがすスペーステロ計画に巻き込まれて――日本SF大賞受賞の傑作長篇

〈サフィール3〉の異常な機動から、国際宇宙ステーションを狙う軌道兵器であるという噂が広まりつつあった。北米航空宇宙防衛司令部のダレル・フリーマン軍曹は事態の調査を開始、いっぽう著名な起業家のロニー・スマークは、民間宇宙ツアーPRのため娘とともに軌道ホテルに滞在しようとしていた。調査を続ける木村和海は、すべての原因が新型宇宙機“スペース・テザー"にあるという情報をイランの科学者より得る――


もうこれが異常なほど面白い。
ツッコミどころ満載で、説得力はないんだけども(笑)


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓




ハリウッドの映画みたいですね。
スペクタクル物の。
「俺達が地球を救うんだ!」的な。
個々の人物を掘り下げて描写することよりも、群像劇の中でどういう役割を割り振るのかを重視しているかのよう。その「駒」の配置の妙をもってグイグイ読ませるタイプの小説かな、と。

システム屋特有の言葉遣いや固有名詞が、のっけから奔流のように読者を飲み込みます。管理人はそういう言葉にある程度免疫がありますけど、それでもなんだかなぁ…と疑問に感じますね。専門用語を羅列すればそれっぽいムードが作れると思っているのか、もしくは煙に巻いているようにしか思えないんですよね。わざわざそんな言葉遣いしなくても伝わるじゃん、むしろ読者が理解するのを阻害してるんじゃないか…という。
…と思ったら、巻末に用語解説がありました。ま、学術書や参考書ではないので、文章の流れの中で理解できなければ、わざわざそこを参照しながら読んだりはしませんけど。

冒頭からそんな調子で冷めかけるのですが、そこを乗り越えて物語が急速に動き始めると、めちゃくちゃ面白い。そこまで辿り着けずに諦めてしまう人もいるかもしれないですけどね。
キーとなる人物がシアトルに集まってくる様子が、RPGのパーティー編成のようでゾクゾクするし、CIAの局員を中心にしたチーム運営の描写も興味深い。“プロ”が“アマ”の能力をどう引き出すかとか、得意分野ごとの役割分担や、それぞれが持ち寄った情報が噛み合って事態が動き出すところとかね。あと、敵⇔味方の人物相関も読みどころ。
また、SF的アイデアとそれを支える技術解説がベースとなる物語なので、知的好奇心を刺激する類の面白さがあるんですけど、それだけじゃなくて、同時に「想いの継承」という人間臭いテーマも織り込んでいるところが良いですね。優秀な人材の海外流出について問題提起をしつつも、説教臭く感じさせない文章であることも美点でしょう。

渋谷のオフィスでHPの更新をしていたと思ったら、シアトルでCIAやNORADや空軍と一緒になってスパイ紛いのことをやって、対テロ・チームを率いていたぜ…!
みたいな話で、そのスピード感に乗せられてサクサク面白く読めるんですけど、先に書いたように色々と説得力や必然性に乏しいです。読み終わって冷静になると、余計にそれを感じるという。プログラマー沼田明利の驚異的な能力や、事態が政治と関係ないところでポンポンと都合よく転がってゆく点、なんでみんなそんなに目標に向かってすぐ一致団結できちゃうの?とか…etc…。ま、総じて登場人物個々の心理描写まではあんまり踏み込んでませんよね。それをやってたら遥かに分量の大きい作品になってしまい、スピード感が失われると思いますし。
個人的な最大のツッコミどころは、散々ページを割いて主要人物の如く紹介した、戦闘機乗り2名による“ホウセンカ”作戦ですね。もっとサラッと書けたはずですし、そもそもコレ、作者が戦闘機好きで、イーグルが活躍するところを書きたかっただけなんじゃないのか疑惑が、、、、(笑)
また、物語の肝となるスペース・テザーについて、物理的な構成とその動作のイメージがつかみにくく、なんとなーくは想像しつつもモヤモヤしたまんま読み終えちゃった。管理人の想像力不足なのか、筆者の説明が巧みでないのか、分かりませんが。図解があればよかったなー。あと、終盤の展開が甘ちゃん過ぎる。


と、文句はありつつも、ところどころジーンとしながら楽しく読むことが出来ました。人物の掘り下げの浅さはともかく、魅力的で愛すべきキャラも登場しますし。面白さが上回る。


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