ロジャー・ホッブズ『ゴーストマン 時限紙幣』

ロジャーホッブズ_ゴーストマン時限紙幣
ロジャー・ホッブズ『ゴーストマン 時限紙幣』 (田口俊樹 訳、文春文庫)

ロジャー・ホッブズの犯罪小説、『ゴーストマン 時限紙幣』を読みました。デビュー作。
「このミス」「週刊文春ミステリ」、どちらも3位。

48時間後に爆発する120万ドルの紙幣。それを見つけ出し、爆発前に回収せよ―犯罪の後始末のプロ、ゴーストマンの孤独な戦い。5年前のクアラルンプールでの銀行襲撃作戦と、カジノの街での時限紙幣追跡をスタイリッシュに描き、世界のミステリ賞を総なめにした傑作! 主人公の過去を描く短編を特別収録。

あー、すごい。
凄いよこれ。
傑作。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓




プロの犯罪者の活躍を描く、クライム・ノヴェルです。主人公は、犯罪の後始末をつけ、その痕跡を消し去ることを得意とする、「ゴーストマン」と呼ばれる仕事人。“誰でもあって、誰でもない”という設定の主人公なので、その人物造形はいまいちはっきりとしません。一人称語りの体裁をとっているにも関わらず、このゴーストマン氏、自分語りをあまりしないので。詳細な犯罪描写とひたすら行動しまくる様子から朧げに見えてくるもので判断するのみ。あとはちょこちょこ回想的なシーンはありますけどね。
ただそこはかとなく漂うロマンティシズム、それと時折ちょっとした精神的なズレを感じさせる描写があって魅かれますし、終盤に向けて読み進める間に、読者の中で徐々に朧げな人物像を結んでゆく過程が面白いです。「仕事」の無い時にはひたすら翻訳をしているというくだりから醸し出される、“文系”の匂いも魅力的だし。
また、文庫化にあたって収録された、主人公の過去を描く短編『ジャック ゴーストマンの自叙伝』を読むことで、さらに主人公へのシンパシーは強まるのです。なんだかめっちゃ切ないよ、これ。孤独だからか。かつ、本人が孤独であることを憂いてはいないからか。

5年前のクアラルンプールでの銀行襲撃と、リアルタイム進行での120万ドルの追跡が交互に描かれます。5年前の事件での失敗を清算するために、今現在時限紙幣を追っかけなきゃならない羽目に陥ってるので、過去の話の行方はある程度判明している。でもこれがめちゃくちゃ面白いのよね。おまけに、複数陣営が絡み合い、どう転がってゆくかまるで掴めない現在進行形のチェイス。
これほどリアリズム溢れる犯罪小説があったのか!?って話ですよ。実際と照らして正しいかどうかなんてことはどうでもよくって、読み手としては物語の中で真に迫っていればいいんですけど、そこはもう語り口の巧さですよね。主人公ったら、1回電話を架けたらそれだけで携帯をポイしちゃう。それを何回やっているんだという。そういう一つ一つの行動描写の積み重ねが迫真を生む。

映画化が決定している(もうされた?)らしいのですが、そういったエンタメとしての分かり易い面白さを備えていながら、同時に読み物として薄っぺらくないのが素晴らしいですね。ハードボイルドとしても、トリック物としても面白い、贅沢過ぎる逸品。


作者のホッブズは、2016年にドラッグのオーヴァードーズで死亡。28歳。なんてこったい。
残された一作、『Vanishing Games』が翻訳されるのを待ってます。


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