下村敦史『闇に香る嘘』

下村敦史_闇に香る嘘
下村敦史『闇に香る嘘』 (講談社文庫)

下村敦史の江戸川乱歩賞受賞作、『闇に香る嘘』を読みました(『無縁の常闇に嘘は香る』を改題)。
ジャケいいね。

孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作。

江戸川乱歩賞受賞に加え、『このミス』3位&『週刊文春ミステリー』2位という話題作でしたが、とても面白かったですね。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓




それほど長くない尺の中に、盛りだくさんの内容です。
・視覚障害
・人工透析
・中国残留孤児
・家族問題

テーマだけでもこれくらいあるし、ミステリとしても、本格モノ/暗号モノ/叙述モノ/社会派/ハードボイルド…etc…と、色んな要素の取り合わせになっています。

伏線の配置と回収が見事で、それが終盤のトリック明かしでバシバシ炸裂する様は快感です。しかも、文面から作者の「してやったり感」がそれほど匂ってこないところが好印象です。本格ミステリの中には、トリックが机上の空論のように感じられて、登場人物の人となりに結びついていない、つまり説得力に欠けることもしばしばですが、本作では作中に提示された謎が、あくまで登場人物の行動や思考によってほぐれてゆきます。不自然なところがないとは言えないけど、ごくごく少ない印象。

また、トリックの切れ味もそうですけど、上記した様々な要素が物語に無理なく組み込まれ、自然な流れの中で活かされています。この構成力は見事ですよ。
他の作品と差別化する最も大きいものは「主人公は盲目」という設定でしょうけれど、この描写が素晴らしいです。読んでいてやきもきさせられますし、同時にとても不安で怖ろしい気持ちになる。主人公・村上和久の日常を細かく何度も描くことが無駄に感じられるかもしれませんが、これが作品のムードを醸成する上でめちゃくちゃ効果的だと思いますね。閉塞感を積み重ねることで、よりラストの視界がパッと開ける感覚が強烈になりますし、また、この日常描写の中にも巧みに伏線が織り込まれていますし。


傑作。
謎は概ね収まるべきところに収まって、気持ちの良いエンディングを迎えますが、徐浩然の結末がどうなったのかだけが不可解かな。


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