近藤史恵『キアズマ』

近藤史恵_キアズマ
近藤史恵『キアズマ』 (新潮文庫)

近藤史恵の自転車ロードレース小説、『キアズマ』を読みました。
大藪春彦賞を受賞した『サクリファイス』に連なるシリーズになるんでしょうけれど、主要な(ここポイント)登場人物は重なっていません。あと舞台がプロじゃなくて大学自転車部になっています。
シリーズ2作目、『エデン』の感想は → コチラ。
3作目『サヴァイヴ』の感想は → コチラ。

ふとしたきっかけでメンバー不足の自転車部に入部した正樹。たちまちロードレースの楽しさに目覚め、頭角を現す。しかし、チームの勝利を意識しはじめ、エース櫻井と衝突、中学時代の辛い記憶が蘇る。二度と誰かを傷つけるスポーツはしたくなかったのに――走る喜びにつき動かされ、祈りをペダルにこめる。自分のため、そして、助けられなかったアイツのために。感動の青春小説。

このシリーズは大好きなんですよ。
本作も期待を裏切られることのない面白さ。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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近藤史恵の作品はこのシリ-ズしか読んでいないんですけど、上手いな、と毎回感じますね。
レースの行方はどうなるんだろうとドキドキする気持ち、同時にそんなことはどうでもよくなるくらい濃厚な人間ドラマ。その両軸が共存し、どちらも疎かにしないで絡み合わせ、物語を加速させる。そのやり方が上手い。筆力があるってこういうことなんでしょうね。小説を読み慣れていない人でもすんなりと作中に入っていける敷居の低さがあるんではないでしょうか。

特に本作は、プロの自転車競技の世界ではなく、大学の自転車部が舞台、しかも主人公は大学に入って初めてロードレースに触れるという初心者のため、自転車競技における初歩の初歩からの描写となり、読者の感情移入が容易になってますね。そんなビギナ-・岸田正樹がすぐにレースで活躍しはじめるわけですけど、そこにある程度の説得力を持たせる設定になっていることもポイント。あと文章がごくごく自然にテンポ良く進んでゆくから、違和感を感じる暇もないということもある。登場人物を少なめにしている点も簡潔で好印象だし。

具体的なレーズの描写もそうなんだけど、この人、形の無い概念や登場人物の心の機微を描くのがやたら上手いんですよね。それが物語の中にしっかり効果的に組み込まれているから、毎回唸らされる。エース櫻井と岸田、それぞれが背負っている過去、責任や想いが交錯するラストは最高。

新光大学自転車部の今後と、それが白石誓を主人公とする物語とどう交わってくるのか、めちゃくちゃ楽しみです。
最新作の『スティグマータ』は昨年、単行本で刊行済み。


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