パトリック・デウィット『シスターズ・ブラザーズ』

パトリックデウィット_シスターズブラザーズ
パトリック・デウィット『シスターズ・ブラザーズ』 (茂木健 訳、創元推理文庫)

パトリック・デウィットの『シスターズ・ブラザーズ』を読みました。

粗野で狡い兄・チャーリー。普段は優しいが、キレると大変なことになる弟・イーライ。悪名とどろく凄腕の殺し屋シスターズ兄弟は、雇い主の“提督”に命じられ、ある山師を消しにサンフランシスコへと旅立つ。ゴールドラッシュに沸く狂乱のアメリカ西海岸で、兄弟は何に出遭い、何を得て、そして何か失うのか?世界の読者に衝撃を与えたブラッディ&ブラックな傑作、文庫化!

2013年の各ミステリ・ランキングで選ばれた作品ですけど、謎解きの面白さやアッと言わせる展開で読ませる小説ではないです。「凄腕の殺し屋」っぷりが際立つ描写もそれほどありません。最初の期待とは外れていましたし、特に自分が好む要素があるわけでもないんですけど、どこか魅かれるものがあって最後まで読んじゃう、という。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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語り部は殺し屋兄弟の弟、イーライ。
本書の魅力は、この語り口ゆえなんでしょうね。物語がどこに転がってゆくのかまるで分からず、そして特にワクワクするような期待感も無いまま(笑)、それでもページをめくってしまうのは、淡々としつつもブラック・ユーモアに満ちた文章のおかげでしょう。そして、イーライ自身がその「ユーモア」に無頓着なところが肝。狙った笑いではなく、ちょっと抜けた“天然”者によるごくごく自然な視線なんですよね。彼が見つめる世界を、読者が俯瞰した視点から眺めることによって、そこにほんのりとした哀愁を見出す。それがいい。

組織のドンの命令で、ある山師を追ってサンフランシスコに辿り着いた兄弟。そこで出会った人物に「この街には、人間の心を腐らせてしまうなにかが潜んでいるのさ。一攫千金の夢が、狂気に変わってしまうんだ。にたにた笑いながら自殺したあの男は、サンフランシスコというこの街で生きる全住民の心を、よく表していると思うね」と言わせるような、ゴールドラッシュに湧く時代の狂気を切り取りっている点も大きな特徴でしょうか。

奇妙な関係を映した家族小説としての面もあり、そこに着地するとは思わなかっただけに、不思議な余韻を残して締めくくられるラストも印象的でした。


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