吉村昭『羆嵐 (くまあらし)』

吉村昭_羆嵐
吉村昭『羆嵐 (くまあらし)』 (新潮文庫)

ヒグマによる記録的な獣害事件となった三毛別羆事件をモデルにした吉村昭の記録小説、『羆嵐 くまあらし』を読みました。
ずっと前から読んでみたかった本。
三毛別羆事件については → コチラ。

北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆の出現!日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音……。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。

小説とドキュメンタリーのちょうど中間に位置するような作風。
あまり長くない尺というのもあって、思ったより読みやすかったです。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓


「記録小説」という性格をあらかじめ把握しつつも、説明文を読んで立ち上がって来るイメージは、「前代未聞の巨大&凶暴なヒグマ vs 孤高の老マタギ」といったもの。ですが、それは裏切られることになります。良くも悪くも。私にとってはそれほど悪いものではなかったですが。

「老練な猟師」こと銀四郎にヒーロー的な人物造形を求める(この場合はダークヒーローって感じですけど)と、その目論見はあっさりと躱されます。ヒロイックな要素を一切排除した淡々とした描写が生々しいリアリティを備え、リリシズムを排除する。クライマックスたるヒグマの射殺シーンも、実にあっさりしたものですし。それでいて、資料を読み込んでいるような無味乾燥な文章にはならず、ドキドキ感を保ったまま物語が進行するところが◎。
また、ヒグマの習性だけでなく、土地への信仰をはじめとする当時の風俗や登場人物の心の動きの機微がしっかりと描かれており、興味深く読むことができました。

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