高田大介『図書館の魔女』

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高田大介『図書館の魔女』 (講談社文庫、第一~四巻)

高田大介の『図書館の魔女』を読みました。
メフィスト賞を獲ったんですと。

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たないうら若き少女だった。超弩級異世界ファンタジー全四巻、ここに始まる!

図書館のある一ノ谷は、海を挟んで接する大国ニザマの剥き出しの覇権意識により、重大な危機に晒されていた。マツリカ率いる図書館は、軍縮を提案するも、ニザマ側は一ノ谷政界を混乱させるべく、重鎮政治家に刺客を放つ。マツリカはその智慧と機転で暗殺計画を蹉跌に追い込むが、次の凶刃は自身に及ぶ!

深刻な麦の不作に苦しむアルデシュは、背後に接する大国ニザマに嗾けられ、今まさに一ノ谷に戦端を開こうとしていた。高い塔のマツリカは、アルデシュの穀倉を回復する奇策を見出し、戦争を回避せんとする。しかし、敵は彼女の“言葉”を封じるため、利き腕の左手を狙う。キリヒトはマツリカの“言葉”を守れるのか?

海峡地域の動乱を期するニザマ宰相ミツクビの策謀に対し、マツリカは三国和睦会議の実現に動く。列座するは、宦官宰相の専横を忍んできたニザマ帝、アルデシュ軍幕僚、一ノ谷の代表団。和議は成るのか。そして、マツリカの左手を縛めた傀儡師は追い詰められるのか?超大作完結編。第45回メフィスト賞受賞作。


一度も読んだことない作家の作品をいきなり(中古じゃなくって)新品で、かつ発売してすぐ買うってパターンはなかなか無いぜよ。私の場合。それくらい本書は面白そうに感じたし、期待して読みました。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓


「高い塔の中の図書館にいる、声を失った少女」

この設定だけ聞くと、厨二病クサいライトノベルかと思いきや、これが違う。
権謀術数や駆け引きが飛び交う政治の世界のドロドロを描いた社会派小説であったり、『三国志』的なシミュレーション・ゲームの趣きがあったり、探偵モノでもあったり、冒険小説でもあったり、パーティーで旅するファンタジー小説であったりするという、多面的で盛り沢山な内容になっています。まぁ全四巻という超大ヴォリュームですし。
架空の世界を舞台にしていますが、「この国のモデルは中国だな」とかそういうのは類推できます。時代設定的には、中世の後、近代の前って感じですかね。大航海時代の後、国家間の交易が確立されたような時代。いわゆる、近世と呼ばれる辺りでしょうか。

作者の筆致は丁寧で細かいです。登場人物の心情を、置かれた状況の説明を、背景の事情を、丹念に描写してゆく。第一巻の後半のダラダラした流れを過ぎると(ただそれも必要な部分なんだけど)、俄然面白くなります。物語が走り出すというかね。
すんげー、面白い。
凄いよ、この世界観と個性は。


本書には2つのクライマックスがあると考えます。
一つ目は、“図書館の魔女”ことマツリカの手話通訳として遣わされた少年、キリヒトの生い立ちの謎が明らかにされる場面。彼の本当の能力が初めて発揮されるシーンの衝撃たるや、凄まじいものがあります。
2つの意味でビックリ。
①「普通の人間」だけの世界の物語じゃないんだってこと。
②キリヒトの正体、そしてその後に訪れる悲哀。

二つめのクライマックスは、マツリカを含む(率いる、と言ってもいいかも)一ノ谷(←国の名前です)の外交団が、戦火を避けるべく、武力ではなく言葉とありったけの知力を以って三ヶ国間の和睦会議へと臨む様子。こんなに知的好奇心を刺激する“戦い”はなかなか無いよ。登場人物の魅力に依っている部分も大、ですけどね。
二巻から四巻の前半まではワクワクするし、ほんと面白い。


ただねぇ、問題点というか、残念に感じた部分も実は多いのよね。
まずね、作者、アクション・シーンの描写が不得手なように思いますね。一つ目のクライマックスとして挙げたくだりは、本作の中でも数少ないアクション・シーンが披露されるところなんですが、「おぉ、遂に血沸き肉躍る場面到来かッ!?」と色めき立つものの、実際何がどう描かれているか想像するのが困難だったりします。どうも登場人物達の動きや周りのシーンが頭の中で再生できないのよ。文字が上っ滑りする。

そして最大の問題点は、先に上げた「丁寧な描写」。
細かすぎるのよ、どこもかしこも。自己満足的に説明を詰め込み、引き算ができないというか、いちいち細かく心情/動作/背景を書き込むので、物語からスピード感が欠如し、単調で起伏の無い文章になっています。だからここまでの長さの物語になってるってのは、ある。「この場面はサラッと流すところでしょ!」ってツッコミたいのが度々あるし、実際、読み飛ばしたり斜め読みしたりした箇所もある。多少読み飛ばしても大丈夫だから(笑)

四巻の中盤から一気につまらなくなります。それは二つ目のクライマックスがそこで終わるからなんですけど。その先もミステリ的な種明かしがあったり、冒険小説的なドタバタはあるんですけど、そんなのサクッと短くやっつけた方がインパクトは大きいと思うし、第一、弱点である(と考える)アクション描写が物語の終盤にダラダラと垂れ流されるのが我慢ならん(苦笑)。
正直、他の小説がエピローグで語る分量の文章を、とりわけ分厚い第四巻の半分を使って書いてるってだけですよコレ。

先の展開に未知のワクワクさせる要素があるように感じさせること。

これは作者の課題だと思いますねぇ。先が読めちゃうのも興醒めですけど、逆にまったく展開がどうなるか分からないってのも考えもので、こっから先、何を楽しみに読んでゆけば良いのか全く“手掛かり”が無い状態だと、ページを繰る手は止まるんですよ。


まぁ、文句は言いつつも、続編『図書館の魔女 烏の伝言』が文庫化されたら買うでしょうね。間違いなく。
愛すべきキャラ達(それも末端の人物まで詳しく紹介し過ぎなんだがw)の今後が気になるし、「言葉」を操ることによって謎を解体し現状を打開するっていう種類のミステリは、京極夏彦の『百鬼夜行シリーズ』の刊行が止まっている今、なかなか他にはない魅力を放っていると思うので。

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