摩天楼オペラ「地球」

摩天楼オペラ_地球
摩天楼オペラ「地球」 (2016)

国産ヴィジュアル系HR/HMバンドによる、メジャー4枚目のアルバム。
「チキュー」です。読み方は「ホシ」じゃなくて「チキュー」です。

「合唱」をテーマに据えて、洗練された歌モノ・シンフォニックHR/HMを完成させた前々作「喝采と激情のグロリア」(2013)。
そこから、よりライブ向けのノリの良さや攻撃性を求めたのか(どうか定かじゃありませんが)、HR的ラフさが増した前作「AVALON」(2014)。
数曲の例外はあれど、個人的には、前々作はめっちゃハマり、前作は全くハマらなかった。私がこのバンドに求めているのは「気品」なんじゃないのかということを、浮き彫りにした2枚だったと思います。

で、本作。
とても良いですコレ。

前作にアルバム一枚を貫くテーマがあったのどうか不明ですが、今作は「The Elements」というのをテーマに掲げています。エレメンツって何だって話ですが、「“The Elements”とは地球を形成する五大元素【水】【土】【火】【風】【Ether】を指しており~」ということで、こりゃあアリストテレスだ。錬金術だ。賢者の石だ。このテーマ設定だけでもアルケミスト系メタラー(なんだそれ)としては萌える。いや、燃える。

この五大元素それぞれに対応する楽曲が、シングルとして先行発売/配信されておりまして、それらが揃ってこそアルバム・タイトルである「地球」が完成するということですので、当然のように5曲とも全て収録されています。おまけに「AVALON」発売の翌月にリリースされたシングル③致命傷も入っているので、配信シングルまで網羅してるファンにとっては6曲、アルバムの半分が聴いたことのある楽曲ということになります。こりゃあお買い得度は低いねぇ。
まぁ私はシングルはチェックしていないので、本作に関しても新鮮に響きましたが。

あらかじめコンセプトありきでシングル曲を制作したからでしょうか、アルバムの中でもそれらシングル曲だけ浮くようなこともなく、全体の色に馴染んでいるし、丸々一枚、統一感のある作風になっています。実際には、前々作を思わせる曲もあるし、前作からの延長のような曲もあって、割と幅広い曲調が揃ってはいるんですが、なぜだか分かりませんがとッ散らからずにまとまりを感じます。
メタリックさという点からいうと(数曲を除いて)ちょっと物足りない気もしますが、柔らかく包み込まれるようなメロディは圧倒的で、特に終盤に向かってピースフルでポジティヴなムードが全開になっていく作風です。陽性の音楽には免疫の無い、日陰に生息する根暗リスナーたる管理人ではありますが、メロディにフックがあるからか、明るくはあれどあまり能天気には感じないんですよね。そこが良い。


①PANDORA
『パンドラの箱』のPANDORAですね。本来は箱じゃなくて甕みたいですけど。甕から様々な災厄が一気に飛び出してきたという寓話を模したかのように、イントロもなしにいきなり苑(Vo)の歌が飛び出してきます。2分ちょいという短さで駆け抜ける、優美さとメタリックな激烈さが交錯するオープニング。

②BURNING SOUL
【火】に対応した、本作随一のキラー・チューンであり、同時に最もHR/HM然とした楽曲でしょうね。ライブで再現可能かどうか疑うほどのギリギリのVoパフォーマンスに、Gt/Ba/Keyのユニゾンと間奏のハーモニーというキメキメの展開。これは理想のメタルの形なんじゃないのか!?(大袈裟)
気品が欲しいとかなんだかんだ言ってましたが、この曲の熱さと狂おしさとヒロイックさを前にしては平伏すのみ。

③致命傷
軽快なメタリックさが気持ちいいスピード・チューン。らしいKeyメロとガッツィーな掛け声系コーラスを同居させる手腕はさすが。

④YOU&I
チャラめの忙しいVoが特徴のイェイイェイイェイ系の曲なんだけど、Keyのおかげでバカバカしくなることをなんとか回避できてるし、演奏の力強さは光っている。

⑤君と見る風の行方
我が流法(モード)は【風】!(ワムウだ…)
すげぇ爽快感! 爽やかかつ哀愁のあるハードポップです。良曲。

⑥Good Bye My World
サビが前作を思わせるガサツ系HR調のウォイ!ウォイ!な曲で、個人的にこういうタイプの曲はいらないんだよなぁ。でもこういうのが必ず入って来るのがオペラなんだと認識しないといかんなぁとか、ライブで必ずやりそうだうよなぁとか思うわけです。彩雨(Key)は苑に次ぐ、このバンドの第二のソングライターですが、前作から薄々と感じてたけど、もしかしてチャラめの曲を書くのって彼か?(笑)
でもウォイ!ウォイ!なだけじゃなくて、メインリフがフォーキッシュだったり、ヴァースにはジャズっぽい気怠いムーディさがあったり、Violinが乱舞したり、プログレメタル的な技巧全開のパートがあったりと、キメラ的でヘンテコで忙しい曲でもありますね。サビでいきなりウォイ!ウォイ!ってなる様にはヤケクソ染みたものさえ感じられるし、なんか疲れたサラリーマン的な歌詞がB'zZEROっぽいよな(笑)

⑦青く透明なこの神秘の海へ
【水】に対応した、アルバムの中核をなす大作。フォーク/ヴァイキング・メタルっぽいリフ、シンフォによる装飾、広がりを感じさせるメロディ、ダイナミックに展開する8分間が、正に船出するようなワクワク感と大航海時代的ロマン(なんだそれ)を感じさせてくれてサイコーです。冒険だぁ!って感じっすよ。
もそうですけど、それぞれの元素に対応したシングル曲では、曲名に忠実な曲調で仕上げられているので実に分かりやすく、かつコンセプト作としても効果的です。このバンドのムード作りの巧さ/イメージの具現化レベルの高さが現れているところなんじゃないかと。この曲も、「神秘の海」なんじゃなくて、「神秘の海」なんだよなー。この「」が大事。
アルバム構成上はここで折り返しって印象もあります。

⑧FANTASIA
Anzi(Gt)作のインスト。おおまかに、テクニカル→メロディアス→しっとり→壮大と展開してゆく曲で、GtだけでなくBaとDrのプレイもかなり聴き応えがありますね。前曲とともに、アルバム構成上のポイントでしょうね。

⑨SILENT SCREAM
これもAnzi作。シンフォニックメタルとしての摩天楼オペラの魅力が全開になった良曲ですね。Keyの美しさと壮大さを絡めた秀逸なリフ、ツーバスドコドコの疾走感、スリリングな間奏と、聴きどころは多い。サビがサビらしくない、というか、どこがサビだか分からないような曲ですが、滑らかに展開してゆくメロディに不満は全くありません。

⑩ether
我が流法は【光】!(カーズだ…)
弦アレンジが秀逸な、シンフォニックHR。アルバムはここから一気にポジティヴな色合いを増しますが、この曲における歌メロの甘美さとバンド・サウンドの力強さの同居は素晴らしいですね。後半のハイライト。KAMIJOソロっぽいメロディ使いと明度のコントロールの巧さを感じたりも。

⑪讃えよう 母なる地で
【土】に対応した曲で、これも尺は長め。少年合唱団のコーラスをフィーチャーしたピースフル極まりない曲で、メタルっぽさもロックっぽさも皆無。むしろ賛美歌。ハレルヤっす。アーメンっす。On Mother Earthっす。ただ、そういうムードの曲が存在していても違和感のないアルバムの流れに仕上げられていること、この幅広さを飲み込んでしまうくらいバンドの懐が深いことは特筆すべき点。

⑫地球
「もうそろそろ寝よう 明日も早いから」なんていう歌い出しをみると、摩天楼オペラってバンドは私の認識よりもずっと身近で日常的でフレンドリーな存在なのかもしれんと思ったりも。イメージとしてはシンフォニック!って感じなので、個人的にはもっと崇高な存在でいてほしいんだけど(笑)
前曲から穏やかかつ多幸感全開で着地する大団円のバラード。パンドラの甕の中には「希望」だけが残されたという説もありますが、これは途中、の歌詞にも現れているテーマですし、このアルバムが激烈に始まり、希望をもって終わるのは象徴的ですわね。

⑬嘘のない私で
初回盤のみのボーナス・トラック。元はアニソン歌手のかなでももこに提供された曲ですが、そのセルフ・カヴァー。これはキャッチーかつしなやかに駆け抜けるシンフォ・チューンで、良いですね。


曲数の多いアルバムですが、コンセプトに沿った構成力の賜物でしょうか、割とサクッと聴くことができますね。
前作で気になった放りっぱなしというか、ガサツさの目立つ歌唱ですが、まぁ確かにヴァースではそういう荒っぽさをわざと出している曲もあります。ただ、ブリッジ~サビへと進むに従って気品が宿ってくるし、この手法は歌メロの落差やメリハリを生み出すためと思えば納得できるし、事実、その試みは成功してると思います。
苑の歌の巧さが映えるアルバムですね。もっと突っ込んで言えば、本作は彼の抜群の歌唱力・表現力こそ核となる作品ではないでしょうか。演奏の巧さ・聴き応えは言わずもがな、ですけど。

彼らにシンフォニックであることを求めると期待通りですし、民族音楽風味の導入等、新機軸と言えそうな要素もあり、守りに入ってはいない姿勢は素晴らしいです。反面、メタリックさや攻撃性をもっと欲しいと思う人もいるでしょうね。初回盤はでアップテンポに締めくくられるので聴後感は良いですが、アルバム後半にもう1つ、攻めの曲があればなぁ…というのは、HR/HMバンドの作品としては思うところかも。
個人的には、前々作と並ぶ傑作だと思います。

前作ももう一度ちゃんと聴きなおしてみようかしら。評価は変わらないような気もしますけど。

【お気に入り】
②BURNING SOUL
⑩ether
⑨SILENT SCREAM
⑦青く透明なこの神秘の海へ
⑤君と見る風の行方
③致命傷
⑬嘘のない私で
⑧FANTASIA

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COMMENT 4

かつ丼  2016, 02. 25 [Thu] 23:35

チキュー万歳(笑)

⑨がAnzi作なのに驚きでした。
ミドル、スローテンポかインストを作曲するというイメージでしたので
⑨のサビが解らないっていうのは同感です!
個人的には、メタリックさが欲しいです。
しかし前作の反動からかメロディアスな作風になったのは有り難いですが
次作では、G○lneyusみたいに
ストーリー仕立てのコンセプトアルバムに
挑戦をしてほしいです(笑)
お気に入りは、①〜③,⑤,⑧,⑨です。
最後に長文、失礼しましたm(_ _)m

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ヒゲ・スカイウォーカー  2016, 02. 28 [Sun] 11:55

かつ丼さん、

かつ丼さんのお気に入り曲を見ると、やはり終盤にメタリックな曲が欲しかったというところのようですね。
今作に関してはテーマありきで、それに沿った曲を揃えたようですから、ある意味ポジティヴで柔和な作風なのは当然なのかもしれません。まぁ器用なバンドだと思いますし、このまま落ち着いた作風に帰着するとは思えないので、今後が楽しみではあります。

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かつ丼  2016, 02. 28 [Sun] 20:26

昔は、似たり寄ったりと言われたり
若手No.1みたいに言われた頃から
良い意味で器用な作風になったのは
KAMIJO主催のレーベルに
在籍していた頃から追っかけている
私としては、嬉しい限りです。
あと、六本木のワンマンに行きます!

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ヒゲ・スカイウォーカー  2016, 02. 29 [Mon] 20:10

かつ丼さん、

私が聴き始めたのはメジャーに行ってからですね。V系歌唱に免疫のある私でも、最初は苑の歌い方になかなか面食らいました(笑)

ツアー・ファイナル、楽しみましょう!

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