スティーヴ・ハミルトン『解錠師』

スティーヴハミルトン_解錠師
スティーヴ・ハミルトン『解錠師』 (越前敏弥 訳、ハヤカワ文庫)

スティーヴ・ハミルトンの『解錠師』を読みました。

八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に…非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作。

海外で数々の賞を獲り、国内でも各ランキングの上位に入った作品ですが、評判通りこりゃ傑作だわ。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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「ロマンはどこだ?」
というのは、伊坂幸太郎のコメディタッチの犯罪小説、『陽気なギャング』シリーズに登場するセリフですが、本作の金庫破りという設定、しかもそれを芸術的な美的センスを以って描写したところ(本作の原題は『The Lock Artist』だ)には、明らかにロマンがある。しかもその解錠師である主人公が少年で、かつ過去の事件に起因する発声障害を持っているというのだから、ツカミは強い。

冒頭でその少年=マイクルが刑務所に収監されていることが明らかになりますが、物語は、彼が解錠師として過ごす犯罪の日々と解錠師にならざるを得なかった高校時代の出来事を描く2つの時系列によって成り立っています。そのどれもがマイクルの一人称語り口調なんですが、この淡々とした語り口が逆に物語の哀しさや滑稽さを際立たせるんですよね。翻訳者の手腕もあると思いますが、それが素晴らしい。
この並列描写構成の巧さが、本作の完成度の高さに結びついているのは否定できないところです。マイクルが師匠ゴーストの下で初めて解錠のコツを掴んだ際の興奮を描く23章、そして過去の事件が明らかになる24章。この連続する2つのエピソードが実は互いに絡まりあい相乗効果を生んでいるところなんて、もはや天才的。

どちらの時系列でも、物語の進行に従って読み手をグイグイと感情移入させてきます。派手な展開は少ないにも関わらず、犯罪小説としてのスリルと知的好奇心への刺激、青春小説/恋愛小説としての繊細な心理描写を兼ね備えているので全く飽きない。それどころかあちこちのシーンで心揺さぶられます。
物語全体を貫く、恋人アメリアへの想い。そして、事件の後マイクルを引き取ってくれた伯父・リートとの別れのシ-ンは、とりわけジーンとキた…。


再び刑務所のマイクルに戻ってくる、エピロ-グにあたるシーンの美しさよ。
超絶傑作。

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