有栖川有栖『女王国の城』

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有栖川有栖『女王国の城』 (創元推理文庫、上・下)

有栖川有栖の『女王国の城』を読みました。
作者と同名の有栖川有栖という登場人物が出て来る、「学生アリスシリーズ」の4作目。でも有栖は探偵役じゃないっていう。別名「江神二郎シリーズ」とも言われているんでしょうか、(おおざっぱに言えば)「探偵=江神、語り部=有栖」の構図ですな。
シリーズ前作の『双頭の悪魔』を読んだのは大学生の頃だったかな? 物語の細部はまるで記憶にありませんが、衝撃的なトリックは覚えてる。その3作目から15年後に刊行された本作(2007年刊)は、その年の各ランキングで上位に入りましたね。

ちょっと遠出するかもしれん。そう言ってキャンパスに姿を見せなくなった、われら英都大学推理小説研究会の部長、江神さん。向かった先は“女王”が統べる聖地らしい。場所が場所だけに心配が募る。週刊誌の記事で下調べをし、借りた車で駆けつける―奇しくも半年前と同じ図式で、僕たちは神倉に“入国”を果たした。部長はここにいるのだろうか、いるとしたらどんな理由で―。

江神さんと再会できてほっとしたのも束の間、人類協会の総本部で大事件が発生。それなのに、協会は外部との連絡を断ち自力で犯人を見つけるという。どうしてこうなってしまうの?殺人事件に巻き込まれるだけでたくさんなのに、また閉じ込められてしまった。翌朝轟いた銃声は事態をさらに悪化させたけれど、これを好機と見てモチさんとアリスが行動を開始、織田さんと私も…。


評判以上の傑作。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
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「新本格」と呼ばれる一連の作家の作品は、登場人物の会話を読んでいるとどうにもこうにもむずがゆくなってくるものが多いんですよね。本作でもそれは当てはまって、凸凹コンビ的な織田と望月(共に推理小説研究会のメンバー)のやりとりなんて鳥肌が立ちそう。2人のどちらが喋ってるのか分からなくなる時があるし。その言動がどこかイラつかせる有馬麻理亜なんて、名前からして拒否反応が出るのよね。
因みに、麻耶雄嵩の作品に出て来る登場人物も相当ヘンテコな名前ですが、あちらはもっと突き抜けてるし、名がそのまま役割を示していたりするので気にはならないんだよなぁ。

そんなリアリティに乏しい世界観にのめり込めなくとも、そして、最近は犯人当て等のトリックに主眼がある作品にはとんと興味が薄くなった私だったとしても、本作は紛うことなき傑作でしたね。凄いわ。

丁寧かつ真摯に作り込まれた、ド真ん中直球正統派本格ミステリ。

上巻における展開のゆっくりさには身悶えしたくなるかもしれませんが、それが後々活きてくるから苦労(?)は報われるのだ。しかも、机上での推理のビルド&クラッシュ合戦に陥っていない点が巧いし、途中ちょっと冒険小説的になるパートの存在が物語に起伏を生むのに役に立っていて、なかなか読ませる。最初は無意味な存在とばかり思っていた織田と望月も、閉じられた舞台の中で複数陣営が同時に動くというスリルを生むことで貢献してますし。

なにより、「読者への挑戦」を提示した後の謎解きパートは感嘆する。この進め方や描写がヘッタクソだと、途中で「もう犯人も動機もトリックもどうでもええんや!」ってなって流し読みしちゃうんですが、グイグイ引き込まれましたからね。複数の謎が次々に明らかになるに従って、伏線回収の妙と論理を積み重ねることの面白さに唸る。
冒頭に提示される、「何故、江神は“女王国の城”へ向かったのか」というささやかな謎が解明された時に感じる切なさには、頭でっかちな推理モノでは味わえない、シリーズ物としての人間味があって良かったですね。


久しぶりに謎解きの面白さを味あわせてくれた作品。本格ミステリを読むなら、これくらい小手先じゃない丁寧に構築された小説を読みたいですね。トリックの切れ味や突拍子の無さよりも、大事なのはやっぱり語り口と構成だよなぁ、と感じました。要するに、作者の筆力か。
シリ-ズ完結編となるらしい5作目が、無事刊行されることを祈っております。

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