貫井徳郎『乱反射』

貫井徳郎_乱反射
貫井徳郎『乱反射』 (朝日文庫)

貫井徳郎の『乱反射』を読みました。

地方都市に住む幼児が、ある事故に巻き込まれる。原因の真相を追う新聞記者の父親が突き止めたのは、誰にでも心当たりのある、小さな罪の連鎖だった。決して法では裁けない「殺人」に、残された家族は沈黙するしかないのか?第63回日本推理作家協会賞受賞作。

これは、グロテスクだ…。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓

「ひとつだけわかったことがあった。それは、人間の命運はほんの些細なことで分かれるという事実だった」

グロテスク。
奇ッ怪でおぞましい描写があるわけではない。でも、この作品に描かれていることはグロテスクに感じますね。ここでいう「殺人」に繋がる/繋がらないかという結果は置いといて、こういうことが普段からあっちこっちで起こってるんだろうなと想像させる有様が、グロテスク。
やりきれない、後味の悪い作品ですね。でもそれが作者の狙ったことならば、これはとてもクオリティの高い作品なんだろう、と。

冒頭に「結末」の提示があるので、読者にはそれが悲劇的なことであるというのは分かってる。「それ」が起こる瞬間に向けて、作者は丁寧に、それこそ執拗に“関わってくる”登場人物の人となりや置かれている環境を描写する。これがムカムカするんだ(笑)。真綿で首を絞められるような(締められたことない)、ジリジリと追い込まれるような感覚。行き着く“結末”とそこへの筋道がすぐに予想できてしまうからね。
初期伊坂幸太郎的な伏線回収パターンにも思えますが、そこまで緻密ではなく、やや無理矢理なご都合主義やこじつけを感じます。ただ、ミステリ物としての充実は二の次である小説であるとも感じるので、私にとってはそれほど大きな瑕疵ではないですね。テーマ設定は明確だし。

「その事故」が起こるまでの過程が第一部だとしたら、主人公・加山が“関係者”を尋ねまわるのが第二部。加山の追及に対して、一見“いいひと”に思える関係者ほど過酷な運命に突き落とされるし、良心の呵責に苛まれてるのが分かるのが、なんともやりきれません…。

そんな中、作者は仄かな希望や暖かみを感じさせるシーンも所々に残しており、それが心に残ります。
例えば、事故で娘を亡くした刑事・佐々倉が、
「こういうケースではむしろ、我々より新聞の方が力を発揮するんじゃないですか。これはあくまで個人的な意見ですが、こんなときこそ新聞にはとことん追求して欲しいと思いますよ」
「子供を喪ったりしたら、気持ちの整理なんかつかないですよ。時間が経てば気持ちの整理がつくなんて、そんなことはあり得ないんです。気持ちの整理は、自分でつけるものなんです」

と加山に向けて言うシーン。
また、ケバメイク“まともじゃない”系女子高生の「死んだ子のためにもがんばって。応援してる」には、ちと胸を衝かれた。


この作品を象徴する言葉はこれでしょうね。
「想像力不足は罪だとは思いませんか?」

思う。
想像力の欠如や無意識って、追究したり責めを負わせにくい点で厄介極まりないから。
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