島田荘司『御手洗潔と進々堂珈琲』

島田荘司_御手洗潔と進々堂珈琲
島田荘司『御手洗潔と進々堂珈琲』 (新潮文庫nex)

島田荘司の御手洗潔シリーズの短編物、『御手洗潔と進々堂珈琲』を読みました。

京都の喫茶店「進々堂」で若き御手洗潔が語る物語。
進々堂。京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に、世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は、日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う――。西域と京都を結ぶ幻の桜。戦禍の空に消えた殺意。チンザノ・コークハイに秘められた記憶。名探偵となる前夜、京大生時代の御手洗が語る悲哀と郷愁に満ちた四つの物語。
『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』改題。


新潮文庫の新シリーズらしく、装丁がかなり異なりますね。しおり紐が無い(残念ポイント!)し、カバーが光沢がある。そして“らしくない”ジャケ画。


以下、人によっては「ネタバレ」と感じる部分があると思いますので、ご注意ください。
 ↓

島田御大の作品ってのは、作者本人が書きたいテーマがまずありきで、そこにどうミステリ要素(本人曰く、“奇想”か)がぶち込まれているかという構成であって、他の本格ミステリ小説とは異なる「歪さ」があると思うんですね。その本テーマ部分の描写やエピソードが長大になり過ぎて(筆が走り過ぎて?)、ミステリ作品としては退屈なものになることはよくあります。また、そのエピソード単体としては面白いんだけど、ミステリ部分との結合が強引だったり、全体としてバランスを欠いていたり…。
まぁ私は作者の視点や文章、人物描写等が好きなので、ミステリであるかは二の次にしてたいていの島田作品を楽しむことはできますが。

で、本作。若き日の御手洗潔(京大の医大生)を描いた4編はどれもミステリ色は薄いですね。ミステリファンというより、御手洗ファン/島田ファン向けの作品集。作者ならではの弱者への優しい視線、物事への冷徹な分析、ロマンティックな情緒は不変なので、私としてもそこそこ楽しめました。でも絶賛はしない、というくらいの評価でしょうかね。
後のワトソン役となる石岡和己と出会う前の御手洗の、“普通の人”っぷりが読めます。『戻り橋と悲願花』での「そう言って、御手洗さんもまた、にっこり微笑んだ」という一文なんて実に新鮮。「にっこり」っすよ、旦那。あの御手洗潔が「にっこり」(笑)。「君は何をボヤボヤしてるんだッ!」「今忙しいんだよ石岡君!」的な名探偵時代とは別人のような穏やかな語り口が印象的です。まぁどれも世界をあっちこっち放浪していた時代のエピソードを振り返る形であり、今そこにある危機に対処するわけではないので、さもありなんという感じですけど。

最後の1編、『追憶のカシュガル』での「だがぼくはそれからたびたび、この夜のことを後悔した。なんとしても引き留めるべきだった。(中略)ぼくは判断を誤ったんだ」というくだりは、後の御手洗の人物像に繋がる一文のようで印象的でした。
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